「ゆうしゃさまだ!ゆうしゃさまが復活した!」
おじいさんは振り返っておおぜいの人に向かって叫んだのです。
すると歓声はいっそう大きくなりました。
おおぜいの人たちはみんな口々にまさとくんの名前を呼んでいます。
「ゆうしゃまさとが復活したぞ!」
「まさと、まさと、まさと!」
まさとくんはもうわけがわかりません。
なんでみんなぼくのこと知ってるの?
ゆうしゃってなに?
復活ってなに?
まさとくんの頭の中は「はてな?」でいっぱいになりました。
「ちょっと待て!!」
突然大きな声がして、歓声がぴたりと止まりました。
ひとりの男が立ち上がってまさとくんを指差しています。
「その人が本当にゆうしゃなのか?本当にゆうしゃは復活したのか?」
さっきまであんなに歓声をあげていたみんなもざわざわと騒ぎ始めます。
「おれは確かめてみるまではその人をゆうしゃとは認めないぞ!」
するとまさとくんの手を握っていたおじいさんがまさとくんに向き直ってこう言いました。
「まさとくん、あなたが本当のゆうしゃがどうか証明してください」
おじいさんはまさとくんの手を引くとピラミッドの頂上の脇の方へと連れて行きました。
そこには大きな台があり、一本の剣が刺さっています。
「まさとくん。あなたが本当にゆうしゃならば、この剣を抜いてください。できるはずです。」
ゆうしゃってなに?ぼくはゆうしゃなんかじゃない、ぼくはキャンプに行きたいんです、とまさとくんは言いたかったのですが、ものすごいおおぜいの人たちがみんなまさとくんをじっと見つめているのでとても言いだせませんでした。
しかたがないので、まさとくんは言われるがままに剣を抜いてみることにしました。
大きな岩に刺さっている剣の前まできてみると、どんな剣なのかがよく見えました。
剣はとても立派でとても重そうに見えました。握る部分には飾りがたくさん彫られていて、たくさんの宝石がはめこまれていました。刃の部分もただまっすぐな鉄があるだけではなく、握る部分からの飾りが刃の部分まで伸びてからみあっていて、そこにも赤いきれいな宝石がはめこまれています。
こんな大きくて重そうな剣、ぼくに抜けるわけがない、と思う気持ちと、こんな剣とっとと抜いて早くキャンプに行かなくちゃ、という気持ちと、でももしこの剣を抜くことができなかったらぼくはいったいどうなってしまうんだろう、という気持ちがぐちゃぐちゃに混じって、しかもここはいったいどこなんだろう、ゆうしゃとかいったいなんのことなんだろう、とかさらに考えだすと、まさとくんはもう泣き出したいような逃げ出したいような、涙が出そうになってきました。
でもまさとくんはやっぱりキャンプのことを思い出しました。
そうだ、何があってもぼくはキャンプに行くんだ、こんなところで泣いたりしてる場合じゃない、と思うとチカラが湧いてきました。
ぼくがゆうしゃだろうがゆうしゃでなかろうがそんなことはどっちだっていい。でもたぶん、ぼくがこの剣を抜けなかったら、このおおぜいの人たちはぼくをこのまま行かせてくれたりはしないだろう。とにかくこの剣を抜いてしまうんだ。
そう決めてまさとくんはつか(剣を握る部分)に手をかけました。その瞬間でした。
「待て!!」
また誰かが叫びました。
おおぜいの人たちの方を見ると、さっき大声をあげた男でした。
「まずおれにやらせてくれ!おれこそが本当のゆうしゃだ!」
男はそう言いながらまさとくんがいる剣のところまでおおぜいの人たちをかきわけてやってきました。近くで見るとその男はとても大きくてたくましい体つきでした。お父さんよりも、いや今までまさとくんが会ったどんな人よりも大きかったのです。
いったい何を食べたらこんなに大きくなるんだろう、とまさとくんはうらやましくなりました。
そして男はまさとくんを見ようともせずに、片手で犬でも遠ざけるようにまさとくんをはらうと、剣のつかに手をかけました。
「おらあああああっ!!」
大きな掛け声とともに男はチカラいっぱい剣を引き抜こうとしました。むきだしになった腕の筋肉が硬くこわばってチカラが込められているのがまさとくんの目にもわかりました。
しかし、剣はぴくりとも動かないのです。
男はなおもチカラをこめて剣を抜こうとします。剣は同じくまったく動きません。男の額に血管が浮き出ています。
「くそおっ!!!」
男はついにあきらめて剣から手をはなしました。そして肩を上下に大きく揺らし、切れぎれの息でこう言いました。
「このおれにも抜けない伝説のエクスカリバーを、こんな子供が抜けるわけがない!」
エクスカリバー?
エクスカリバー!!
なんとこの剣はエクスカリバーですか!?
あの伝説の剣エクスカリバー。
まさとくんはたちまちやる気が湧いてきました。ぼくがエクスカリバーを抜いてやる!とそんな気持ちになったのです。
でもあの大男に抜けなかった剣です。小学生のまさとくんが抜けるとはとても思えません。どうすればいいんだろう。チカラ、もっとチカラがあれば…。
するとまさとくんはお父さんにもらった手ぶくろのことを思い出しました。
お父さんはこう言っていました。
「このかわの手ぶくろをはめれば何十倍もチカラがわいてくる」
まさとくんはすぐにリュックをおろすと、いちばん上に大事にしまっておいたかわの手ぶくろを取り出しました。
そしていつも寝る前にちょっとだけはめてまさとくんの手にもうすっかりなじんだかわの手ぶくろを、ゆっくりと両手にはめました。
今までだって何度はめてもチカラがわいてくるのを感じたことはありません。でもまさとくんはお父さんの言葉を信じていました。
かわの手ぶくろをはめたまさとくんは手を二、三度ぎゅっぎゅっとにぎると、剣の方へゆっくり手をのばしました。
剣のつかをにぎるとかたい鉄の感触がかわの手ぶくろをとおして伝わってきます。
まさとくんは小さな声で「いくぞ」とつぶやくと、腕にチカラをこめて一気に剣を引き抜きました。剣はなんの抵抗もなく見事にするっと岩から引き抜かれたのです。
一瞬の静けさのあと、先ほどより大きな歓声が上がりました。
つづく