「きみのための物語」2


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まさとくんはそのまま気を失っていたようです。

 


どれくらい時間がたったのでしょう。気がつくと背中がひんやりとしていました。どうやら大きな岩の上に寝ころんでいるようです。

 


体を起こしてみるとどこも痛くないので、ケガはないようです。まさとくんはここがどこなのかと思うより先にケガをしていないことにほっとしました。ケガしてしまったらキャンプに行けなくなってしまうからです。

 


安心したら今度は不安になってきました。だって学校へ向かって通学路を歩いていたはずなのに、ちょっと横道に入っただけなのに、今まさとくんはまったく知らない岩の上にいるのです。しかもあたりは真っ暗です。なんだかわけがわかりません。どれだけ眠っていたのかもわかりません。

でも、突然暗闇に放り出されてしまった怖さは少しもありませんでした。なぜならまさとくんは暗闇よりもキャンプにいけない不安の方が大きかったからです。

 


集合時間に遅れたらどうしよう、ケガなんかしてなくても時間に遅れたらキャンプには行かれない、そんなことばかりが頭の中をぐるぐる駆け巡って、暗闇を怖がることなんてちっともできなかったのです。

 


だんだんまさとくんの目が暗闇に慣れてくるとあたりの様子が少しずつわかってきました。どうやらここは洞窟のようです。

そして洞窟は完全な暗闇ではなく、うっすらと光があります。光はずっと向こうの少し上の方から入ってきているようです。

すっかり暗闇に目が慣れると、まさとくんは起き上がって、光がさす方へと登って行きました。洞窟の中は坂道になっていて、まさとくんが目を覚ました岩は洞窟の一番奥の一番低いところにありました。そこから坂を上っていったところからどうやら光が差しているようです。つまりあの光が入ってきている場所は洞窟の出口に違いないのです。

 


まさとくんはもうケガの心配なんか忘れて出口に向かっていきおいよく走り出しました。ケガなんかしなくたって時間に遅れてしまえばキャンプには行けなくなってしまう。

 


そうだ、たとえ集合時間に遅れてしまってもお父さんにキャンプの島へ渡るフェリーの港まで車で連れて行ってもらおう。ここがどこだかはわからないけど洞窟を出れば誰かいるはずだ。大人がいたらその人にお願いしてお母さんに電話をかけてもらおう。ぼくはお母さんの電話番号おぼえているから大丈夫だ。そうしてお母さんに迎えにきてもらってお父さんに車で乗せていってもらえばキャンプには行けるよ。学校から港までのみんなとのバスの旅はなくなっちゃうけど、島でキャンプできればそれでいいんだ。とにかくぼくはキャンプに行くんだ。このまま時間に間に合えばいちばんいいんだけれど。

 


そんなことを考えながら、洞窟のゴツゴツした岩場を飛ぶように駆け上がっていきました。ふしぎととても体が軽く感じられます。まるで飛んでいるようにすいすいと坂をのぼっていきます。ふだんならこんな石がゴツゴツしているところを走ったら絶対つまずいてしまうのに、今はまったく平気です。まるで風にでもなったかのようです。チカラいっぱい走っても息も少しも苦しくありません。

そうやってしばらく走っていると、だんだんとあたりが明るくなってきました。洞窟の出口が近くなってきたのです。そうしてまさとくんはとうとう洞窟の出口にたどり着きました。

 


洞窟の出口は思ったよりも大きく、土曜日にお祭りで行った町の商店街の門くらいありました。

 


洞窟から出るとそこは本で見たピラミッドのような石段のてっぺんでした。そしてそのピラミッドの石段のところにはたくさんの人がいました。しかもみんな突然ピラミッドの頂上に現れたまさとくんを見ているのです。

ピラミッドの石段にびっしりと並んだおおぜいの人たちはみんなびっくりしたような顔をして、誰も声を立てませんでした。こんなにたくさんの人がいるのに誰も話していないのです。まさとくんはその静まりかえったようすに思わず立ち止まってしまいました。

 


するとその瞬間、石段に並んだたくさんの人たちがいっせいに大きな声をあげました。

 


うわあ、とか うおおとか、とにかく喜んでいるような、そんな声がたくさんの人の口からいっせいに出てきたのです。それはまさとくんを歓迎しているようでした。

 


まるで地鳴りのような歓声はまったくなりやむことがありません。まさとくんはいったい何がおこったのかまったくわからずにただただそこに立っていました。

 


するとそのたくさんの人の中からおじいさんがひとりまさとくんの方に近づいてきました。おじいさんは目を大きく見開いて驚いた様子です。口もとはうっすらと笑っているように見えました。大きく開けた目でまさとくんをじっと見ています。

そしてまさとくんの目の前まで来ると突然まさとくんの手をにぎってこう言ったのです。

 


「おおお!ゆうしゃさま!」

 

 

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つづく

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