「きみのための物語」 5
「ケルベロスがあらわれた!」
まさとくんは聖剣エクスカリバーを何度も三頭の犬、地獄の番犬ケルベロスに振り下ろしました。
話ができるようであれば、まさとくんはなるべく怪物を殺さずに逃げてくれるように説得しました。時にはそのまま仲良くなっていっしょに親玉退治の旅に行ってくれる怪物もいました。
ただ、だいたいの怪物はまさとくんの話なんか聞いてもくれません。ただただまさとくんたちゆうしゃ一行におそいかかってくるのです。
このケルベロスもまったく話を聞いてくれませんでした。三つの口がみんなうなり声を上げて、六つの目はとても鋭く光っていました。そうしてまさとくんたちにおそいかかってくるのです。
まさとくんは、おそわれるとしかたなく、いつもそうするのですが、はじめはかわの手ぶくろをはめた手で怪物を殴ります。なるべく殺したくないのです。
それでまさとくんの強さを感じて、これはかなわない、と思わせて怪物が逃げるようにしむけるのです。
ただこの方法は、あまり強くない怪物、どっちかというと弱い怪物にしかききめがありません。
ある程度の強さを持った怪物はそのくらいでは逃げ出しません。むしろ怒ってよけい向かってきます。
殴っただけでは倒せないと判断すると今度はエクスカリバーを抜きます。もうどうしようもないので剣でやっつけるしかないのです。
こうして今回はケルベロスを倒しました。
ケルベロスは「銀の首輪」を持っていましたので、まさとくんの仲間がそれを拾いました。「銀の首輪」には防御力を上げる効果があります。
もう何度こんな戦いをしたでしょう。
まさとくんは怪物と戦うことが、怪物を殺してしまうことが好きではありませんでした。
でも、新しい怪物の親玉「武武王(ぶぶおう)」を倒すためにはしかたのないことでした。武武王は村長の大事な一人娘をさらってしまったからです。武武王を倒してさらわれた女の子を助けることができるのは復活したゆうしゃ、まさとくんしかいないのです。
そんなわけで、まさとくんがゆうしゃとして武武王を倒しに行く旅が始まったのです。
おそらくもう、いや絶対に学校のキャンプには行けないでしょう。
ここがどこなのかもよくわからないし、そもそもまさとくんがキャンプに行こうとしていたまさとくんの世界では大地震も洪水もありませんでしたし、もちろん怪物なんかいませんでした。ここはたぶん、まさとくんがいた世界とはまったく別の世界なんでしょう。
ここがまさとくんがいた世界だとわかることがいくつかあるのです。
まず大地震や洪水がなかったこと。怪物なんかいないこと。そしてなによりこの世界では体が軽いのです。跳び上がると2階建の家を飛び越えてしまうほど高く飛べます。石も岩もとてももろくて、まさとくんが殴るとお皿のように簡単に割れてしまいます。そんなわけでまさとくんは本当にゆうしゃのチカラを持ってしまったのです。
こっちの世界ではまさとくんより強い生き物はいませんでした。おそらく、武武王をのぞいては。
つづく
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