「きみのための物語」 1


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その日は学校のイベントで

みんなで島にキャンプに行く日でした。

まさとくんははじめてのクラスメイトとのキャンプでうれしくてうれしくて

ウキウキしながら持ち物を用意しています。

 


お弁当、寝袋、300円分のお菓子、水着、着替え、

そして特別にお父さんからもらった革の手ぶくろ。

今日のキャンプのためにお父さんが買ってくれたのです。

まさとくんに手ぶくろをわたす時お父さんはこう言いました。

 


「いいかい、まさと。

この手ぶくろは革でできた特別製だ。キャンプの時はこれをつけるといいよ。きっとまさとのチカラが何十倍にもなるから」

 


まさとくんは手ぶくろをつけたくらいでどうしてチカラがたくさん出せるようになるのか、ぜんぜん理由がわかりませんでした。

でも、お父さんが買ってくれた革の手ぶくろはとてもかっこよかったので、もらったその日からまさとくんはいつもまくらもとに手ぶくろをおいていっしょに寝ました。それほど手ぶくろはかっこよくて気に入ったのです。まさとくんは早くキャンプに行って、革の手ぶくろをつけて、自分のチカラが何十倍にもなることを毎日想像しながら眠りにつきました。そして毎晩キャンプの幸せな夢を見ました。

 


まさとくんはリュックにぜんぶの荷物をつめたあと、一番上にその革の手ぶくろをのせました。いつでもすぐに取り出せるようにしておいたのです。

 


かわの手ぶくろをしまって、ついにキャンプの用意ができました。

 


まさとくんは意気揚々と玄関のドアを開けます。

 


「いってきまあす!」

 


空は雲ひとつない快晴です。

 


「いいキャンプになるぞ」

 


まさとくんは駆け出したい気持ちをおさえてしっかりと学校への道を歩き出しました。あせって転んでケガでもしたらキャンプに行けなくなるかもしれません。ここまできてそれだけは絶対にイヤです。

 


毎日通っている通学路がいつもとどこか違って見えます。ブロック塀の向こうからのぞく木の枝も、そこに生い茂る葉っぱも、暑くて溶けそうな黒いアスファルトもいつもより色濃く、鮮やかな色に見えるのです。まさとくんの体の中はすっかりキャンプへの喜びで満たされていたのです。

 


そんないつもと違って見えるいつもの通学路にまさとくんはふいにおかしな感覚を覚えました。

 


なんか変だな、と思ってよく気をつけてあたりを見てみました。

 


するといつもの通学路のブロック塀の先に見覚えのない横道があります。

 


「あれ、こんな道あったかなあ…」

 


まさとくんは不思議に思ってゆっくりとその横道の前に歩いて行きました。

 


「こんな道見たことないなあ…」

 


そういえば、いつも学校に行く時、帰る時は友達とおしゃべりしたり、棒や石を拾って遊んだりで、通学路がどうなっているのかなんて気にしたことなんかなかったのです。

 


ここにこうして横道があったのかどうか、まさとくんはよく思い出してはみましたが、あったともなかったともはっきりとはわかりません。

 


でも今日はとにかく待ちに待ったキャンプの日です。まさとくんは思い直して横道のことなんてもうどうでもいいや、と学校へ向かって歩き始めました。

 


でも、一歩二歩三歩進んだところでピタリと足が止まってしまいました。

どうにもこうにもあの横道が気になってしょうがないのです。

 


ええい、とまさとくんは思い切りよく横道までいったん戻りました。

 


どうせそこまで行ったらすぐに知ってる道につながっているに違いない、さっさと確かめて学校へ行こう、と思い定めたのです。

 


そうと決めたら脇目も振らず、まさとくんはどんどん横道に入って行きました。

 


しかしちょっと進んだだけでまさとくんはまたおかしなことに気づきました。

 


「こんな道、ぼく通ったことない」

 


その横道はまさとくんがまったく知らない道だったのです。

 


こんな道絶対今までなかった、なんかおかしい、もう引き返そう、とふりかえったその時です。

 


ドーン!と大きな音がして、まさとくんの目の前が真っ暗になりました。

 

 

 

 


そのまままさとくんは真っ暗な世界に落ちていくような、深い深い穴にゆっくりと落ちていくような、そんな感覚になりました。

 


そしてまさとくんのまわりは真っ暗な世界になってしまいました。

 

 

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つづく。 

 

 

 

 

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